「介護業界のAI活用は、まだ始まったばかりです。でも、だからこそ今が最大のチャンスでもある」——中島美咲さんは、そう力強く語ります。介護福祉士・社会福祉士・中小企業診断士の資格を持ち、100社以上の介護・福祉事業所のDX支援を手がけてきた介護経営コンサルタント。現場の最前線を知るプロフェッショナルが見る、介護業界とAIの現在地と未来を伺いました。
100社を支援して見えた「成功する事業所」の共通点
——これまで多くの介護事業所のAI導入を支援されてきた中で、成功する事業所と失敗する事業所の違いは何だと感じますか?
一言で言うと、「目的の明確さ」です。成功する事業所は必ず「何のためにAIを使うのか」が明確です。「残業を月20時間減らしたい」「離職率を下げたい」「採用コストを半分にしたい」——具体的な数字と目標がある。一方、失敗する事業所は「DXをしなければいけないから」「他の施設がやっているから」という理由でツールを入れます。目的がないまま技術を入れても、誰も使いません。
——具体的に、どんな場面でAIが最も効果を発揮していますか?
私が支援した事業所の中で、最も効果が大きかったのは「介護記録の作成」です。介護職員が1日平均1〜2時間かけている記録作業が、音声入力とAI文章整理の組み合わせで30分以下になる。これだけで月20〜30時間の削減になります。次に効果が大きいのはシフト管理、その次が採用関連の文書作成(求人票・採用メール)です。
「2026年は介護AIの普及元年」——業界に何が起きているのか
——2026年現在、介護業界のAI活用はどの段階にあると見ていますか?
私は「黎明期の終わり、普及期の始まり」だと見ています。2023〜2024年は「AIって何?」という段階でした。2025年から「試してみた」という事業所が増え始め、2026年は「使っている事業所と使っていない事業所の差が見え始める」年になると思います。厚生労働省も介護記録のデジタル化を推進しており、制度的な後押しも強まっています。
——今動かない事業所は、どんなリスクがありますか?
3つのリスクがあります。第一に「人材確保の競争力低下」。AI活用で残業が少なく、働きやすい事業所が増える中、旧来の働き方を続ける事業所には人が集まりにくくなります。第二に「コスト競争力の低下」。AI活用で運営コストを下げた競合事業所が、より良いサービスを低コストで提供できるようになります。第三に「スタッフの疲弊による質の低下」。書類仕事に追われ続けるスタッフは、利用者と向き合う余裕を失っていきます。
「介護の本質はAIに奪えない」——人とテクノロジーの共存
——「AIに仕事を奪われる」という不安を持つ介護職員も多いと思います。
その不安は理解できます。でも、私が100社以上を支援してきた経験から言うと、AIで「なくなった仕事」は一つもありませんでした。むしろ、AIで書類作業が減った分、利用者との時間が増えて「介護の仕事が楽しくなった」という声の方が圧倒的に多い。介護の本質——利用者の尊厳を守り、その人らしい生活を支える——これはAIには絶対にできません。AIはその本質的な仕事に集中するための道具です。
——最後に、これから介護業界でAIを活用しようとしている経営者・担当者へのメッセージをお願いします。
「完璧を求めないこと」と「小さく始めること」の2つです。AIは使いながら学ぶものです。最初から完璧な活用を目指すと、準備だけで時間が過ぎてしまいます。まず1つの業務で試してみて、効果を実感したら次に広げる。その繰り返しです。そして、AIを使う目的を常に「利用者のために」に置いてほしい。技術のための技術ではなく、利用者の生活の質を高めるための手段として使うとき、介護業界のAI活用は本当の意味で花開くと思っています。
中島さんが推奨する「介護事業所のAI活用ロードマップ」
フェーズ1(〜3ヶ月):現状把握と目標設定——「どの業務に何時間かかっているか」を計測し、最も時間がかかっている業務を特定する。削減目標を数字で設定する。
フェーズ2(3〜6ヶ月):1つの業務でAIを試す——目標とした業務に特化したAIツールを1つ選び、まず担当者1名で試す。効果を測定し、スタッフ全員に展開する。
フェーズ3(6ヶ月〜):横展開と定着化——成功した活用法を他の業務にも広げる。定期的に効果を測定し、改善を続ける。
今すぐできる「AI活用準備チェックリスト」
今月の業務時間を記録してみましょう。「記録作成」「シフト作成」「報告書作成」「メール対応」それぞれに何時間かかっているか把握することが、AI活用の第一歩です。最も時間がかかっている業務が、最初にAIを試すべき業務です。




